第7回インタビューVisit 中 野  成 将 氏(4)

小 林「そうなんですね。特にシングル盤の表現の幅が広がりましたね」

中 野「その通りですね。最近ではCDと音楽配信サービスが競合しています」。              「これにより、さらに表現の幅が広がる可能性があります」

小 林「遡れば日本においては1960年から1980年代はレコードが主流で、そしてカセットテープなどでしたから」

中 野「こうした音楽媒体の変化は、作詞・作曲・編曲家、歌手、ミュージシャン、音楽プロデューサーなどのアーチストの作品制作に大きな影響を与えました」

中 野「そうですね。単純なところでは”SUN”がシングル盤8cmCDでしたら2曲でしたので、”SUN”のような表現はできなかったわけですから。格段に収録数が増やせたことで、新たな表現方法の作品に取り組むことができましたね」

小 林「2008年当時、私が”SUN”のCDジャケットを見て、丘の上からGUNSHYのメンバーが地平線を見つめている様子と、雲の切れ間から浮かび上がっている金色の『SAN』の文字が印象的でした。左斜め上には、雲から微かにお城らしきものが覗いています。   背表紙には、『SUN』 1.SUN、2.真夏の日の鼓動、3.DRIVE、4.幻風景、5.葉月とある。『ジャケットは、このラインアップなら燦然と輝く太陽だろう』と、失礼ですけど率直な感想でした」

中 野「私たちの作品をジャケットや背表紙まで真剣に見ていただき、評価をいただけることは、嬉しいことです。曲は如何でしたか」

小 林「当時は”DRIVE”と”葉月”はお気に入りで何回も聞きました」

中 野「気に入っていただいた曲があって嬉しいです。ありがとうございます」

小 林「今回、改めて曲を一通り聞いてみると、ジャケットはオープニングの日の出から、エンディングの日の入りまでを連想させる仕掛けだったのかと思い、自分が恥ずかしくなりました」

小 林「一番カルチャーショックを受けたのは、”SUN”が物語のストーリーラインに沿った組曲だと気付いた時です。その後、私の頭の中では、恋愛ものやビジネスものなどのシーンが展開し、”SUN”の魅力に引き込まれました」

中 野「小林さんが特に気に入っているドラマ仕立ての楽しみ方を教えてください」   

小 林「物語の主人公は男子大学生で、同級生の女子学生に対して友情から恋心が芽生えます。やがて、この恋心は抑えきれないものへと変わります。深夜2時、彼女からのメール、日曜日に一緒に海へドライブとあり有頂天なります。以外に、彼女は『私たちは最高の友達』と残酷な言葉を告げます。そう君は爽やかな笑顔の先輩が好き、現実は残酷な片恋。幻想の恋愛は呪縛の世界へ。そこから現実の世界に戻ろうと足掻き苦しむ、青春の苦悩。そんな自己から輝く青年時代の自分を取り戻そうと、やがて長いトンネルから抜け出て、かつての青年へ戻ろうと流れ星に誓います。そして、新しい世界へと旅立ちます。the end」                           

中 野「”SUN”を、そうした聴き方をいただいたのは、日本人では小林さんは初めてです」

中 野「ちょっと、待ってください。曲をかけますね」

小 林「1曲目のインストゥルメンタル”SUN”は、幕が上がり、暗闇からヴィオラの演奏で徐々に地平線が浮かび上がりネーブルブルーへ。そしてシンバルとドラム音で、空がロイヤルブルーから茜空のオレンジとピンクに染まり、夏の太陽が地平線から昇り、真っ青の抜けるような空に、真夏の太陽が燦々と輝いていくという雄大な情景が迫ってくる。(暗転)」

小 林「2曲目の”夏の日の鼓動”は、このドラマの前説。(闇の中、スポットライトが前説者を照らす)一転して軽快なアップテンポの曲で、舞台は照りつける太陽の季節が訪れる。(明転)」

小 林「前説、終了(即暗転)」

小 林「3曲目の”DRIVE(ドライブ)”は、暗転からリズミカルでハイテンポの曲。(明・暗クロス)」

小 林「熱烈な恋心を抱く。(暗転)」

小 林「4曲目の”幻風景”は、立ち込める霧と時折さす光の世界。ギター音とドラムで、幻想的な風景に誘う。幻想に浸り呪縛への沼地に陥る主人公。幻想の世界から現実の世界へと揺れ動く苦悩。(幻想的光)」

小 林「大失恋、自己嫌悪に陥る。(暗転)」 

小 林「5曲目の”葉月”(8月)、それは偶像と悟り、実像を直視する。自暴自棄にならぬようにと、自縛から解放された彼女との決別の時を迎える。(やや明から茜色・夜空・明)」

小 林「あの時の青年の元へと立ち戻ろうと、流れ星に誓い、あの夏の日の頃の鼓動を呼び覚ます自分探しの旅に出る。(フェードアウト)幕が下がる」

中 野「素晴らしいです。ありがとうございます」

小 林「”SUN”を小説に喩えるならば、私小説を無我夢中で一気に読破し、すごく楽しめたという心境ですね」

中 野「日本の小説作家で言えば、」

小 林「志賀直哉と太宰治の中間位置するような作家が、真情を披歴し自分の身を削っての『恋も恋愛も』、『片恋や破局も』、『自縄自縛』、『輝く少年を取り戻そうと飛び立つ』という、小説は『青春の門』ですね」

中 野「五木寛之の『青春の門』ですか」

小 林「そうです。その門は、ほろ苦い経験や呪縛など、一度は通り抜けるべき門でしょう。中野さんの歌詞は、その門をスムーズに通り抜けられない主人公が登場します。呪縛し苦悩するが、自暴自棄にならない主人公が常にいます。そうしたメッセージをサンウドに乗せて送り続けた。そしてGUNSHYの集大成としてのロック組曲”SUN”が生まれたことに感動しました」

中 野「GUNSHYの”SUN”を、小林ワールドで解釈していただき、感謝します。僕たちは、曲が世に出た後、リスナーやファンの方々の解釈によって様々な楽しみ方をしていただけることを願っています」

中 野「物事が上手くいかなくても、自暴自棄にならないで、新たな輝く希望に向かって飛びだってほしい。また、それが叶わなくても、新たな希望を抱き、いつかは夢を叶えてほしいというメッセージを大切にしてきましたので、大変嬉しいですね」

小 林「私の知る限り、日本におけるロックで歌詞付きドラマ性のある組曲はないですし、従ってこうした楽しみ方はできないと思います」「それをGUNSHYは先駆けて制作提供したことは賞賛すべきことだと思います」

中 野「小林さんは私達の”SUN”を組曲として捉え、楽しんでいただいたようですが、そのように感じたのはどうしてですか」

小 林「私は中学生の時に演劇部に所属しており、大学では芸能部を立ち上げたので、そうした視点で改めて聴き自然に”SUN”に誘われましたね」

中 野「それを聞いて嬉しいです。私自身、大学での学びオペラ(歌劇)が自然とそうした方向に導いたのだと思います」

小 林「”SUN”は、GUNSHYの音楽志向とアイデンティティが完成された形と言えるでしょう」

中 野「ありがとうございます」。「お褒めいただきましたが、現実は厳しく、望むようなプロダクションからのオファーもなく、2009年にGUNSHYを休止せざるを得ませんでした」                                  

小 林「ロックにおいて、世界は分かりませんが、日本ではいまだに、そうした作品作りや楽しみ方は、珍しいかもしれませんね」。「それはエリック・サティーの影響でしょうか」。「こうした先駆的なロックが、いつかは一般的になるかもしれませんよ」

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