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1.コーヒーの歴史【9】一味違う珈琲伝播〈6〉
Caffe「皆さん、Caffe(カフェ)です」。「今回第9回は『 イスラーム教とコーヒー (6) ~ イスラーム教創始者の絶望の淵 ④ ~ 』をお伝えします。 「さて、前回は、アブー・ターリブは『ハディージャとルカイヤだけの問題ではなく、ムスリムたちを代弁しているメッセージなのだ』と、ムハンマドに『広く行う啓蒙活動は多宗教のメッカでは奇異の目にさらされるだけ。当面親族や親しい人々に限定して活動する』ことを提案しました。ムハンマドは『親戚や友人に丁寧に話し布教活動を行いましょう』と唱え告げました。すると、全員からほのかに安堵の笑みがこぼれました。「それでは、皆さんを『イスラーム教とコーヒー(6)~イスラーム教創始の絶望の淵 ④ ~ 」』へご案内申し上げますワン」
『 イスラーム教とコーヒー (6) ~イスラーム教創始者の絶望の淵 ④ ~ 』
アリー「お父さん」とやや薄暗い部屋で敷物に横になり休息している父親の耳元で囁いき、蝋燭に火を灯した。浮かび上がった父の顔は目の下にくまが出来て顔がやや浮腫んでいた。
アブー・ターリブ「アリー、無事で何よりだ。ダアワはどうだい」。立ち上がり我が子を両手で包み挨拶を交わした。
アリー「過日、お父さんがクライシュ族の過激派の同行を心配し、ダアワは親戚や友人に限って行うことを提案し、これをムハンマドが英断しましたね。ムハンマドはムスリムにそれを履行するように徹底してくださいましたから」。歯切れよく話す。
アブー・ターリブ「それは良かったね。これで一安心だが、クライシュ族は先祖代々多神教信者として継承しており、それにカアバ神殿のお陰で生活が潤っている現況にあるからね」。「だから一神教のダアワは死活問題だからね」。「イスラームが浸透すれば、それに比例して迫害は激化する」。アリーの顔を下から上へと繁々見つめ眉をひそめた。
アリー「十二分に理解しています」と声を詰まらせた。アリーは日増しにクライシュ族の過激派から『ムスリム狩り』と称して片っ端から仲間が襲われている。アリー自身も夜襲され命かながら、ここ実家に逃げ込んだ生々しい記憶が蘇る。こうした日常に、狭間で耐える父親の痩せ細った姿に、声を詰まらせながら精一杯応えた。
アブー・ターリブ「ササン朝とビザンツ帝国の長期に渡る戦争で、シルクロードは両国の国境で途絶え、紅海貿易は衰退している。それで、クライシュ族はアラビア半島西部を経由してキャラバンでシリア方面へと運んいるからね」。「私も、それの中継貿易で潤っている」。いつかしらか、口癖のように語る。
アリー「はい、…..」。顔を曇らせ、神妙にそして噛み締めて聞き入れる。
アブー・ターリブ「しかし、これらは保証の限りではないからね」。「それに比べて、カアバ神殿は古くから多神教の巡礼者を遠方から多く集めてくれている。それは、これから先も、このメッカに繁栄をもたらしてくれるだろうからね」。一気に捲し立て、語尾を飲み込むように静かに着地させた。
アリー「そうですね。唯一神になってしまったら、カアバ神殿がなくなり、巡礼者は途絶えてしまう。それに戦争が終結したら、交易も元に戻る…..。そう考えると、静かな水面に一石を投じられた、いや彼らからすると撹乱していると思うのが極自然ですね…..」。クライシュ族の過激派の気持ち察した。
アブー・ターリブ「私の父は、祖父からハシーム家としてカアバ神殿の鍵の管理を行ってきた。私もムハンマドの父も継承しなかったが…..」。珍しく胸の内を曝け出す。
アリー「…..」。父親の心の葛藤がこれほどまでに激烈で深いものだったとは、微塵にも思わなかった驚きで返す言葉が見つからなかった。
アブー・ターリブ「ムハンマドは私の兄の息子だが、今では私の息子だ。唯一神アッラーから啓示を受け、息子アリーお前も信仰告白を行った」と大きく息を吸い込み静かに吐き出した。「私は二人の息子たちを命がけで守り抜かなければならない。しかし、.….」。目を充血させ、刹那して止め処もなく涙がこぼれ落ちた。
アリー「分かっています。ハシーム家はムハンマドと私の5代前からクライシュ族として、多神教を信仰し一族として繁栄してきましたね。その一族の中で多神教のカアバ神殿周辺で一神教のダアワを行っている者が突如出現した」と語気が上がった。
アリー「それがクライシュ族のハシーム家のムハンマドだということで、一枚岩だったクライシュ族に不協和音が生じて、二極化の危機に至っているのですね」。念を押し、アブー・ターリブの顔を優しく繁々眺めた。
アブー・ターリブ「交易やカアバ神殿がもたらす事業はクライシュ族だけでなく、他の部族の利権も絡んでいる。クライシュ族に対して他の部族からの反発が日増しに激しくなって来ている」。そして間髪入れずに「このままだと、箍(たが)が切れるのは時間の問題だよ」。念を押して警鐘を鳴らす。
アリー「それに、ムスリムを支援してくれている財源は、クライシュ族の中でお父さんがキャラバンで稼いだお金ですからね」。「ましてや、ムハンマドとハディージャの交易商もそうですからね」。「複雑です….」と固唾を飲んだ。
アリーは、これまでクライシュ族が、父親に対して赤裸々に強く激しく、ムハンマドと私に活動を辞めさせるように、圧力をかけて来たことは薄々理解していた。そして過日、父親が訪問して来た日には、ムスリムに危害が及ぶと強く感じた。今は、いよいよハーシム家に対して、またムスリムを擁護する者へも、これまでに無かった抑圧と抑制が執拗に及ぶのだと背筋が凍りついた。
《MEMO》▶︎クライシュ族(Quraysh)五〜七世紀、メッカの支配権を握った商業貴族で、10〜12家に分かれている。▶︎ハーシム家(Hasim’em)クライシュ族の一家で豪族。イスラーム教の預言者 ムハンマドなどが出た名門。▶︎多神教(たしんきょう)複数の神々をどうじに崇拝する宗教。自然現象を人格化したものや、人間生活の様々な局面を投影した独自の性格と形成をもつ神々に対する信仰。▶︎不協和音(ふきょうわおん)比喩的に、人や団体などの間で調和を乱すような不和や反目。 ⇔ 一神教 ▶︎キャラバンは商隊。▶︎反目(はんもく)にらみ合うこと。仲の悪いこと。(広辞苑etc.)
《ONE POINT》メッカのカアバ神殿がある多神教社会の中心にいるクライシュ族は、唯一神アッラーの布教活動を行うムハンマドや同族の豪族ハーシム家がムスリムの中心的存在になって行く有様を憂慮すべき重要事態と捉えている。日増しにアブー・ターリブに対してもキツく当たるようになった。当初はムハンマドと対話で様子を伺っていたが、日増しにクライシュ族の中にムスリムになるものが増えたのに、痺れを切らしたクライシュ族の過激派はムハンマドを説得するも、反対に布教してくることに、堪忍袋の緒が切れ迫害するようになった。今ではクライシュ族の過激派に同調して、他の一族も利権を守るために『ムスリム狩り』と称して目に余る容赦ない迫害を加えるようになった。その影はムハンマドの育ての親でありアリーの実父であるアブー・ターリブに対しても赤裸々に強く激しくムハンマドに活動を辞めさせるように迫っていた。今はい、よいよハーシム家に対して、またムスリムを擁護する者に対しても危害が及ぶのだと背筋が凍りついた。
Caffe「皆さん、如何でしたか、『 イスラーム教とコーヒー (6) ~イスラーム教創始者の絶望の淵〜 ④ ~ 』はいかがでしたか」。「次回『1.コーヒーの歴史』【10回】、『 イスラーム教とコーヒー (7) ~イスラーム教創始者の絶望の淵 ⑤ ~ 」 』を、ご期待くださいね」。 「それでは皆様、 Have a wonderful time~」
(文・写真 H.kobayashi)